【提案】焼き肉を美味しく焼く方法



焼き肉の焼き方には、皆さんそれぞれこだわりがあったりすると思います。中心で一気に焼き上げる、氷で炭の温度を落ち着かせてから焼く、端でゆっくりと焼くなどなど色々な方法があります。今回は炭火焼に限定しつつ、シンプルかつ奥が深い肉の焼き方について話したいと思います。

まず、焼き網にしっかり熱をまわすところから始めます。網の温度が低いと肉がくっつきやすくなるからです。多くの焼き肉屋さんは席について肉を注文するとすぐに七輪を持ってきてくれるので、肉を焼き始める頃には網が充分に熱くなっているはずです。注意したいのは網を交換してもらった場合。交換して10分ぐらいはそのまま何も焼かずに放っておいた方がよいです。

次に、肉は熱されることによって、どのような化学変化が起きているかを知っておくと、肉を焼くという行為に理解が深まると思います。そこで、温度による肉の変化ついて詳細に解説されている記事を「Cooking Maniac」より引用します。

50度:ミオシンが変性を開始する
によって、ミオシンが収縮して、弾力が生まれることにより、生肉のグニーッって食感から、ブツッと歯切れの良い食感に変えてくれる。

56度:コラーゲンが変性を開始する
コラーゲンは筋みたいで、超硬質のゴムみたいな食感ですが、この温度から徐々にやわらかく溶けていき、トロットロのゼラチン質になる。

60度:肉の色が変色し始める
真っ赤だった肉が、透明感を失ってきて、ほんのり桜色になってく頃合いの温度。

66度:アクチンが変性を開始する
アクチンは、水分をたっぷりつかんでいるタンパク質なので、熱が加わって収縮することで、水分を外に絞り出してしまう、いわゆる「肉汁」を外に排出してしまう。

Cooking Maniac 絶対に失敗しない肉料理のコツ!「火入れの科学」-[知識編]

これからも解るように、肉は65℃を超えたあたりから硬くなり始めということです。以前の投稿「オーブン不要!低温調理ローストビーフのレシピ検索術」内で引用したダグラスボールドウィン氏による肉の火入れの温度と時間の早見表にも、66℃を超えたデータは存在しません。

そして、焼き肉屋さんで提供されるお肉はたいてい薄いので、この変化があっという間に起こる。真空低温調理のように「55℃で二時間かけて加熱する」という訳にもいきませんので、テクニックが必要になってきます。

狙いは表面をメイラード反応させつつ、旨味を含んだ肉の水分を逃がさず焦がさず焼き上げる。要するに、中心が65℃を超えないように気を付けながらゆっくり火を入れ、お好みの焼き具合に仕上げていきます。

「肉は表面を焼き固めて肉汁の流失を防ぐ」という話を耳にしたりしますが、これも間違いです。ハンバーグでしたらこの方法が当てはまりますが、生肉の表面を焼き固めて、肉汁が流失しない為の壁を作ることは出来ません。過去に牛肉の表面をきっちり焼いてから低温調理をしていた時、うっかり目を離していた隙に湯温が70℃を越えてしまい、ジップロック内が肉汁でびたびたになった経験があります。経験則としても、情報を集めても、やはり「肉は表面を焼き固めて肉汁の流失を防ぐ」ことは出来ないという結論になります。これについては「食育通信 online」も言及しておりますので引用しておきます。

〈分子料理学〉によって覆されたものは、これまでの《料理の常識》です。

「肉の表面を焼き固めても、肉汁の流失は食い止められない」

というのもそのひとつ。

〈肉汁が逃げないように表面を焼きつける〉という方法は1850年頃、ドイツの化学者ユストュス・フォン・リービッヒによって考案されました。まだ「表面を焼き固めて、旨味を閉じ込めましょう」と書いている料理本や、教えられている料理研究家の方はたくさんいますが、この考え方は1930年代に行われた実験によって否定されています。

かといって肉の表面を焼くことに意味が無いわけではありません。

表面を焼く理由は『肉の表面を焼き付けることによって褐変反応物質を生成し、風味を増すため』です。

肉の表面を焼き付けることによってメイラード反応が起こり、それによってメラノイジンという芳香化合物が生成されるため、風味が増すのです。
食育通信 online 古くて新しいステーキの焼き方〜21世紀料理教室 その2〜

おそらくこの「肉汁が逃げないように表面を焼きつける」という勘違いが生まれた原因を考えるとこうなります。鉄板及びフライパンで肉を調理をする際に、肉汁が排出され始めた時点での調理器具の温度が低いと、溢れ出た肉汁により更に温度が低下し、肉汁が蒸発するまでに時間がかかり、メイラード反応が遅れる。これにより、表面にきっちり焼き目がついた頃には肉の中心には火が通り過ぎてパサパサになってしまう。

今回は炭火焼が主のテーマであり、肉汁が多少滴ったぐらいで炭の温度が著しく低下することはほとんどあり得ませんので、「肉汁は強火で閉じ込めることが出来ない」とだけ記しておきます。

次に、たまに目にする「肉はあまり動かさない方が美味しく焼ける」というような趣旨の注意書きがありますが、それもほとんど間違いです。例えば脂をたたえた肉を焼く時に最も気を付けたいのは、滴った脂が炭に落ち、それが引火し煙と炎をあげ、それに燻された肉が油臭くなり、瞬時に焦げてしまうことですので、どちらかと言えば脂がにじみでてきたら、肉を網の隅に当てて脂を落とし、場所を変えて焼く作業を繰り返すと無駄に燻されずにすみます。特にホルモンは脂がのっている部位ばかりですので、この方法で焼いてゆくと美味しく焼き上がります。


多くの場合、七輪やバーベキューコンロには端にスイートスポット(遠火の強火)がありますので、全ての肉はその遠火の強火で焼くことを推奨します。それでも火力が強すぎてすぐに焦げてしまうような状況でしたら、冒頭に掲載した写真のように浮かせて焼く方法もあります。トングでつかみ、最も遠火かつ強火である七輪の中心の上方で焼き、脂がにじみ出ててきたら肉を網の端に当てて脂を落とす。火加減は位置の上下でコントロールします。肉汁が次から次へと滲み出てくるようでしたら火力が強すぎる。その場合は肉を上方に逃がし、肉の表面に何も変化が感じられない場合は少し炭に近づける。このようにゆっくり温めるように焼いてゆくと肉表面には自然な焼き色がつき、内部はしっとりと仕上がります。そして、一枚焼いてみれば加減がすぐに解るので、二枚目を焼く時にはもう既に焼き名人になっているはずです。

いかがでしょうか。このように注意深く肉を焼いていたら会話がはずまなくなるかもしれません。しかし、肉を美味しく頂くことができれば、その後の会話がはずむことでしょう(たぶん)。